エズ Ezu
人は翼をもつ鳥に憧れる。だから鳥に因んだ地名は多い。奥多摩ウォーキングは鳩ノ巣渓谷。三陸岩手で有名なのは鵜の巣断崖。埼玉には鴻巣。ハイボールはトリス。磐梯朝日の秘湯は鷹の巣温泉。そして地中海のEagle’s Nestと言えばリビエラ半島を一望する断崖絶壁に築かれた要塞都市エズ。電車駅のある海岸から登るのは至難だが村の入り口に停車するニースとモナコを往復する路線バスなら本数も多く楽ちん。しかし高低差に石畳、狭い路地、吹き付ける海風…人は何故こんな不便で辛いところに住むのだろうか…そんな疑問は眼下のコバルトブルーの海原と、集落全体がギャラリー化してしまう多種多様のアート作品群を目にすれば一瞬で解消する。そうだ、ここは天空の楽園なのだ。そして更なる試練の先に待つ至高の快楽は、迷路のようなトンネルと路地を潜り抜けて辿りつく星付レストランLa Chèvre d’Orのテラスで、その名のとおり燦然と輝く黄金の羊と並んで、全開のコートダジュールを見下ろしながら味わう究極の美食に違いない。
